トロの「蓄養」

今回はマグロの「トロ」のなかでも「蓄養」物についてお話しします。

その前に私の個人的な思いは、ただ一つ。
「是非、天然のマグロを食べて下さい!」
これだけです。

私は蓄養マグロを否定しません。
以前勤めていた水産会社では、餌やりの立ち会いに地中海沿岸のトルコの田舎町に半月程駐在したことがあります。
びっくりするほど本当に「青い」とても美しい海でした。
静かな湾の中につくられた生簀で本鮪がしっかりと管理されている現場でした。
餌にはノルウェー産のサバがメイン。
出荷直前には色付けにエビを与えていました。
もちろん人間が食べる事が出来るものばかりです。
実際にサバは焼いて食べた覚えが有ります。
よく蓄養は「餌の味がする」「イワシ臭い」など言う方がいます。
トルコ産の畜養本鮪は、そのような事は無くとても食味の良い上品な味だったと記憶しています。

そして現在。
市場で冷凍マグロと顔を突き合わせる毎日です。
静岡市場は、メバチマグロが主体です。
天然南鮪が数本、たまに天然本鮪が並ぶという感じです。
一本一本がそれぞれ個性的で、毎日見ても全く飽きません。
釣れた漁場によって色目や脂ののりが微妙に異なります。
そもそも、熱い海を泳ぎ回っているマグロには
脂肪も付きません。

そうなんです。
「蓄養」マグロは、狭い生簀の中で餌を与えて太らせているのです。
そのほうが「トロ」が多く取れて、高く売ることが出来るからです。
「蓄養」は地中海の産卵後の痩せた本鮪に餌を与えて、数ヶ月太らせたら脂が乗って、高く売れた事から始まったようです。
地中海各地のみならず、メキシコや日本近海でも行われるようになりました。
「冷凍」よりも「生」の蓄養本鮪のほうが値段が出ると踏んで世界各地から空輸されるようになりました。
最も多く並ぶのが東京の豊洲市場です。

ここ10年ほどで、日本近海で本鮪の蓄養が盛んになりました。(完全養殖の近大マグロが有名ですね)
産地が市場に近いので、基本的に生での出荷です。

そうすると、シーズンによりますが
「生の本鮪」に限定しても
①近海で釣れた「天然」物
②海外から空輸された「天然」物
③国産の「蓄養」物
④海外から空輸された「蓄養」物
上記4つが並ぶことになったのです。

天然物は個体差が有りますので、品質により値段にかなりの差が出ます。
畜養物は確実に脂が乗っていますので、値段が高値で取引されるかと思いきや、それがそうでもないのです。
荷主が「最低この値段で売りたい」という価格に届かないのが、現状なのです。

つまり餌代等のコストに見合わない価格でしか評価されない事になりました。
「日本近海」で「畜養」されると「いつでも出回る」ことになり、その希少価値が薄くなったという皮肉な結果です。
養殖のぶり、はまち等とよく似た環境かと思います。

畜養物が日常的に出回ることにより、かえって天然物の上脂が評価を上げているのが、今現在の日本の市況です。(写真は、北大西洋:アイルランド産の天然本鮪のお刺身です)

次回に続きます。

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