国産の畜養本鮪のゆくえ

海のダイヤモンドと呼ばれる本鮪。
別名クロマグロは、その希少性と旨さから
まさにマグロの王様です。
天然物はまさに希少品。
日本近海は本鮪の世界有数の漁場です。
最も有名なのが青森県大間漁港に水揚げされる
「大間の本鮪」です。
もうひとつの漁場が北大西洋や地中海です。
こちらは生鮮の状態か、または船上で急速に凍結されて
日本に送られます。

そんな本鮪の高価値に目を付けて、
いまや世界中で本鮪の「畜養」が行われています。

「畜養」とは、産卵後の痩せたマグロを生け捕りにし
直径約50m程の生簀の中で餌を与えて太らせる事です。
地中海やメキシコ湾が蓄養事業の主体でしたが、
近年日本近海でも畜養が盛んになりました。

少し特殊ですが、一番有名なのが「完全養殖」の近大マグロ。
商社の豊田通商と組んで、自分達で飲食店を運営しながら
一般消費者に直接販売しています。

その他、九州各地や四国、和歌山、京都の日本海側等
各地で本鮪の畜養事業が行われています。

そんな国産の畜養本鮪事業に関して、
ここのところ様々なニュースが出てきています。
共通するのは「事業の赤字の連続」です。
冷凍マグロ取り扱い最大手の東洋冷蔵㈱が、
畜養事業の子会社を別の会社に事業譲渡との報有り。
昨年~今年にかけて、東洋冷蔵はこれで
国産マグロ養殖事業から完全に撤退することになります。
もちろん不採算ならばが撤退がスジだと思いますが、
では他の業者は大丈夫なのでしょうか?

国産の畜養本鮪事業の問題は、
コストに見合う評価=単価
が見込めない現在の市況にあります。
かなり前ですが、丸魚の状態でキロ3,000円が
採算分岐点だと聞いたことがあります。
実際のところを知る由もありませんが、
畜養本鮪事業を日本で行うには、
海外に比べてやはり人件費や餌代等が割高です。

そして最大のライバルが
世界各地から空輸される「生マグロ」です。
(本鮪)
①天然本鮪(日本近海)
②天然本鮪(海外=北大西洋)
③蓄養本鮪(日本近海)
④蓄養本鮪(海外=地中海、メキシコ湾)
(南鮪)
⑤天然南鮪(海外=南半球)
⑥蓄養南鮪(海外=オーストラリア)

物流の発達により、出回り時期は異なりますが
これらの生マグロがほぼ連日、
市場に上場されるようになったのです。
③国産の畜養本鮪は「国産である」という事しか、
セールスポイントが無くなってしまったのです。

需要と供給の関係で、
生マグロは値段が極端に下がる場合もあります。
その場合、天然物は基本的に漁獲のコストだけです。
畜養物は畜養のコストが掛かっている為、
どうしても安売りは出来ません。

先駆者たる海外の蓄養業者は、既に何度か相場の上げ下げを経験しており
翌年の生簀に入れるマグロの仕入れを値下げさせる等
事業継続の道を模索し続けています。
「海外でもマグロのお刺身を食べるようになった」とよく耳にしますが、
やはり未だに刺身用マグロの最大のマーケットは日本です。
彼らにとって、マグロはまさに金のなる木なのです。

国内の事業者は、高コスト体質からなかなか脱却出来ません。
脂が乗って入荷も安定している。
売れて確実に利益が出る筈だった国産畜養本鮪事業は
その希少性が薄まったが故に、こうして赤字続きとなっていったのです。