失敗をする経験

ふと何となく目に留まり読んだ、
4月3日の日経新聞の最終面のコラムに
とても心を打たれました。
小説「深夜特急」などで知られる、作家の
沢木耕太郎さんが寄稿されたものです。

【仕事で東北のある都市を訪れ、ホテルにチェックイン。
居酒屋を探していると「キャバクラお探しですか?」と
客引きの兄ちゃんに声を掛けられる。それでも良かったが
「美味しい酒と肴にありつける店」を聞くと、
彼は真剣に考えてから「ちょっとわかりにくい場所ですが…」
と、あるお店を紹介してくれた。
確かに良いお店で、店主との話も弾みまさに至福の時を過ごす。
「分かりにくい場所で旅行者には難しいから、地元のお客様中心でしょう」
と店主に尋ねたところ、思いも寄らない答えが返ってきた。
「食べログのランキング見て、グーグルマップで案内されて沢山見える」
せっかく旅に出て、グルメサイトのランキングに
従って食事どころを決めるのはもったいなさすぎる。

結局は同じ結果だったかもしれないが、
客引きの兄ちゃんの言葉を信じたからこそ
その夜の幸福感は深いものとなったはず。
このようなやり方は失敗も多いが、意外な成功体験もある。
旅においてもネットで調べてから行動を起こすというのは、
失敗する事を過剰に恐れる、現代の若者の傾向に見合っている。
人生において、たとえば就職や結婚といった大事に
失敗したくないのはよくわかる。
だが国内の短期旅行でのささやかな失敗など
いくらでも取り返しが効くもの。
失敗が許される機会に、失敗をする経験を逸してしまう。
それはもったいない】
と沢木さんは言います。

ネットなんてない時代でも
旅のガイドブックはありましたよね。
私の若い頃は、沢木さんの深夜特急のように
「地球の歩き方」というガイドブックを片手に
世界を旅するという若者が数多くいました。
世界各地で政情不安の今、
海外旅行は難しいですし円安も大問題です。
普段から買い物はネットで少しでも安い物を探し、
旅行先ではネットでおすすめの飲食店を探す。

全てがそれで、本当に良いのか?
口コミや、第六感等で動いて失敗したって
大して問題ないんじゃないの?
決して若い人だけでなく、ネットを利用する
全ての世代の人々に共通の問題だと思います。
かと思えばネットの情報だけを頼りに、
田舎の何でもないお店が外国人観光客で溢れたり。
ネット社会の功罪が明らかに出ていると思います。

個人的には、国内旅行については
沢木さんのお考えに大賛成です。
ランキングは、様々な問題がありますよね(サクラとか…)。

海外旅行は、その国の成り立ちというか
「これやっちゃ駄目!」というのは
一応抑えていた方が無用なトラブルが減りますよね。
海外に行くと日本の安心安全快適さに
改めて気付かされると、皆さん言われます。
でもやっぱり現地に行かなければ感じられない事って
沢山あります。

例えばもう出会えない、返還前の香港とか。
今その頃の香港映画が静かに再評価されています。
「アジアの真珠」と言われ活気に溢れた
自由ではちゃめちゃなパワフルな頃の香港。
そんなかつての香港の姿を求めて、昔の香港映画を見る。
すると映画の中には、ちゃんとその頃の香港が存在するんです。
ああ、麗しの香港よ何処へ。
最後は香港へのラブレターになってしまいました。